以前にも書いたように,
うちの診療形態は詰め込みしないでじっくり聞くべきは聞いて、話すべきは話す、
これをモットーにしていますので、
時間に余裕があるときは患者さんとのやり取りがいつのまにか「人生相談」の様になってしまう事も(笑)。
それはそれで大事なことだし、話していただけるのは信用されている証拠でもあるので全然かまわないと思ってます。
もちろん診療に直接の関係のないこういったことに対しても、
当然守秘義務があると考え、その内容は決して口外はしません。
当たり前ですが「人生相談承ります」というつもりは全くありません。
大体私ごときが何を偉そうに言えますか。
私「今日やる処置には麻酔の注射が必要ですが体調はいかがですか?」
患「最近よく眠れなくて・・・。」
私「それは辛いですねぇ。」
患「だってうちの旦那がさぁ・・・。」
てな具合に自然な流れで相談窓口になってしまうので別に意図してやっている訳ではないのですよ(笑)。
そしていつも思うのは、皆さんそういったことを話す窓口が身の周りに無いんだろうな、ということ。
多くの方が一通り話された後「こんなこと先生に言ってもしょうがないのにねぇ・・・」と言われます。
そこで私が気の利いた一言でも言えれば大したものですが、
残念ながら私は御釈迦様でも神様でも瀬戸内寂聴さんでもない(笑)・・・ただ必要な時には自分の考えをのべるだけ。
それでも皆さん吐露した前後ではやっぱり表情が違う。
解決法が見つからなくても悩みは話すだけでも違うとはよく言われることですが、本当にそう思います。
だから旦那さん方は奥さんの言葉にもうちょっと耳を傾けましょ(笑)。
さて突然意外にも「なあセンセ、これからどないしょう?」と力なくおっしゃったAさん、
聞けばこのひと月余りの間にお姉さんと御主人を亡くされていました。
Aさんのお姉さん、いつもAさんと一緒に行動していました。
本当に仲の良い姉妹と誰もが思ってました。
そのいつも一緒だったお姉さんのみならず御主人までも・・・。
その落胆の大きさは誰にも想像つかないだろうことだけはわかりました。
ただ、いつもは聞き手に回っている私でしたがこの時は違いました。
先回述べた様にAさんは元々大阪人。
たくさんの関西人の中で学生時代を過ごした私は大阪人の習性を少しは知っています。
大阪人は大阪の空気でないと息でけへん(ある意味本当)事はわかってましたから、
「いっぺん大阪行ってみたら?目的無くても列車降りてホームで大阪の空気吸うだけでもええんちゃうかなぁ。」
とAさんに進言しました。
「ホンマやなぁ、四十九日済んで落ち着いたらいっぺん行ってみるわ。」
とAさんは元気無いながらもおっしゃいました。
その後この時のことは特別思い返すことも無く過ごしていたのですが、
或る時、我が家に心当たりのない荷物が届きます。
大きな段ボールを開梱すると中身はたくさんの種類のキムチ(!)
差出人はなんとAさんで、大阪の鶴橋(つるはし)からでした。
鶴橋はめっちゃ大阪っぽいディープなところ(笑)。
「焼肉屋さんとキムチのお店しか無いんちゃうか?」いう様なところです。
美味しいキムチももちろんうれしかったのですが、
何よりAさんが私の進言通り「大阪へ行った」事がうれしかった。
「やっぱあれで正解やったんや」とも思いました。
それにしてもAさん気が利いてる。
鶴橋からAさん名義でキムチが届けば「ちゃんと大阪行ったで」という事が私には分かるし、
同時に大阪まで出かける元気がAさんに戻ったことも分かります。
おまけにキムチめっちゃ美味しいし(笑)。
ケジャンおいしかった・・・食べにくいけど(笑)。
「誰?何で?」という顔のうちの奥さんに事の経緯を説明したら一緒に「よかった」と喜んでくれました。
それからもう何年も経ちましたが、これが私の過去一番の良い仕事。いや、本当にそう思ってます。
ありがたいことにAさんは今も患者さんとしてうちへ来てくれてますが、
「大阪行くとなぁ、センセのこと思い出すんや」と今でも言うてくれます。
普通蒲郡に住んでたら関西人、更には大阪人と限ればなおさら縁はありません。
だから「元気出して」という言葉でなく、「大阪行ってきたらええやん」と言える人間はそうは居なかったと思います。
言い換えれば「故郷の水が一番合う」という至極当たり前な事を言っただけなのかもしれませんが、タイミングも大事です。
「必要な時に必要な言葉を言えた」って感じでしょうか。
うちの奥さんにもこの話を一番いい仕事として説明しましたが「一番いい仕事ってそこかい。」と半ばあきれてました(笑)、
でも「そこを一番いい仕事と言えるあんたもあんたやなぁ」とも言ってくれたのでした。
「患者さんの話を聞く」とはいっても実際には多くの場合、一人の患者さんにそんなに時間はかけられない・・・。
何より時間をかければかける程「営業効率」と言う点では全くのマイナスでしかありません。
ですから私のやり方が正しいと主張するつもりは全くありません。
それどころか事業主としては落第です。
通常歯医者での診療は歯医者側のペース主体で進みます。
「今日はここをこうします。」と言って治療が始まってしまいます。
でも中にはそれではダメな場合があるのです。
「ちょっと待って」と口に出して言えない人も多いのです。
「今日はなんか調子悪そうだな」
とこちら側が患者さんの心身の都合を分かってあげられれば一番ですがなかなかそうもいきません。
ですからせめて「今日はここをこうします。」と言った後で、
「特別具合が悪いとか心の準備が必要ですか?」と伺う様にしています。
その上で「今日は何となく・・・」と気の乗らない様子なら聞ける範囲で理由を伺って治療はせずに次回に持ち越します。
Aさんの「これからどないしょう?」と言う言葉もこの過程で出てきたわけです。
さらに続く・・・。
※このブログの内容はAさんご本人の許可を得て記事にしています